(123) 味わい深い
横浜・三渓園のウメ(梅)

横浜市にある三渓園は明治末から大正時代にかけて、製糸・生糸貿易で財を成した原三渓(本名:富太郎)氏が作った庭園で、現在は横浜市の所有になっている日本式庭園です。必ずしも梅を中心とした梅園ではないのですが、興味深い梅が多数あり、横浜市の梅の名所の一つになっています。

    

 (123-1) 三渓園

 三渓園は面積17万m2余の広い庭園で、開園当初には2000本のウメ(梅)があり一般に公開されていましたので、梅の名所として古くから親しまれていました。その梅も多くは戦災で失われましたが、それでも現在は約600本の梅があり、2月になると園内各所で梅の花を楽しむことができます。

  

  (123-2) 三重塔と梅
最高の写真スポットは三重塔をバックに咲く梅でしょう。
園内各所には三重塔をはじめ京都や鎌倉から移築された歴史的建造物が17棟もあり、まるで古都に来たかと思うような雰囲気ですが、これら古建築物と梅が非常に良くマッチしています。
 
三渓園には旧燈明寺三重塔、旧東慶寺仏殿、旧燈明寺本堂、旧矢箆原家住宅など重要文化財に指定される建造物が目白押しで、園全体の文化財的な価値も高い所から、平成19年(2007年)に国指定名勝となりました。

    

 (123-3) 緑

 三渓園の梅の中で異色なものは緑梅(りょくがくばい)と呼ばれる梅の一変種です。通常の梅の花は左写真の右下のようにその萼の色は赤紫ですが、緑梅では写真右上のようにの色が薄緑色であり、花全体が淡く緑色を帯びて見え、梅の清楚な感じが際立ちます。
 この梅は中国・上海市から贈られたもので、園内に数本あります。花期は普通の梅より少し遅く3~4月と言われています。

  

  (123-4) 臥龍梅
三渓園で特筆すべき梅は臥龍梅(がりゅうばい)でしょう。臥龍梅は地を這うように枝が伸び、まるで龍が臥しているような姿をしているところから名付けられた呼び名です。しかしガリュウバイ(臥龍梅)と言う特定の梅の種があるのではなく、古木になり幹が傾き地を這うように育つ梅の総称です。三渓園では創設者が好んで梅の古木を集め臥龍梅に仕立てたため、たくさんの臥龍梅が現在も残っています。
 
梅の楽しみは花だけではありません。樹形や枝ぶりの良さも梅を楽しむ大きな要素です。梅は不整形樹木であり剪定に強い樹木ですから、長年の剪定や強制で見事な枝ぶりの梅を実現できます。また梅は寿命の長い木ですから古木の味わいも見どころです。臥龍梅は梅のそのような特徴を生かした園芸技術の極致です。

  

  (123-5) 弱法師と臥龍梅
下村観山は三渓園の臥龍梅を見て着想を得て、下写真の様な絵画(6曲1双の屏風絵)を残しました。絵画には盲目の法師(俊徳丸)が臥龍梅越しに沈む夕日を拝している場面が描かれ、「弱法師(よろぼし)」と名付けられました。地を這って伸びる臥龍梅の姿が俊徳丸の生きざまを如実に表しています。(下写真は東京国立博物館HPより)
 
梅は、まだ雪が降る寒い時期に花を咲かせて百花の先駆けとなり、春が来れば桜や躑躅にさっさと道を譲り、自らは黙々と梅の実を育み、老いては臥龍梅となってなお存在感を表します。
梅は奈良時代の大昔に日本に伝来し、当時の文人・公子にもてはやされましたが、今また超長寿時代に生きる私たちにとっても、梅はまことに味わい深い樹木です。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 ウメ(梅)[バラ科アンズ属]

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  横浜市中区本牧三之谷58番1号  
 撮影年月   2018年2月
 投稿者   中村 靖   
 投稿者住所  神奈川県横浜市都筑区中川中央
 その他