(92) 校庭のあの樹に会いに行く(その5)
京都大学吉田キャンパスの樹々
大学卒業50周年の同窓会案内を受け取りました。人生において50年は気が遠くなるほどの長い年月ですが、学生時代のことが昨日の事の様に思い出されました。同期の友人たち、ゼミの仲間たちは元気でいるかな。
そして学生時代キャンバスで目にしたあの樹々はどうなっているだろう、ずいぶん大きくなっているだろうな、との思いがこみ上げてきました。同窓会が京都で開かれるこの機会を利用して、校庭(キャンパス)のあの樹に会いに行きました。

  

  (92-1) 京都大学シンボルツリー:時計台前クスノキ
 古い卒業記念アルバムを取り出して見ると、時計台をバックに私が所属していたゼミ(木嶋研)生が映った写真(下写真の右下)がありました。幸いその写真の中に時計台前のシンボルツリー:クスノキが映っていましたので、これを手掛かりにキャンパスを訪ねることにしました。
 
大学正門を入ると目の前にあのクスノキが堂々と立っていました。クスノキの前に立つと「やー、よく来たな。しばらく見なかったが元気でいたか」と言ってくれているように感じました。学生時代に見た姿と少しも変わらず立つクスノキを前に、ここで卒業記念写真を撮ったことがとても50年前の事とは思われず、つい数年前の事のように感じられました。しかし落ち着いてよく見ると、シンボルツリー:時計台前クスノキは学生時代のころより確実に大きく、雄大にそびえていました。

クスノキは樹齢千年を超す巨木が各地に見られる様に、非常に生命力の強い樹木です。時計台前クスノキはこの先千年余にわたって京都大学と共に成長し、私たちに感動を与え続けてくれることでしょう。千年の都にありて、千年の未来に向かって発展する京都大学にふさわしいシンボルツリーです。

  

 (92-2) 石標を飲み込むクスノキ記念樹

 京都大学はクスノキを大学の木に指定していることもあり、キャンパス内のあちらこちらに樹齢100年を越すと思われるクスノキ大木が立っています。

 そのような中で、電気総合館の向かい側の旧建築学教室本館前に感動的なクスノキがありました。 かなりの大木で根元の石標を飲み込みつつあります。石標には「第一回卒業生・・・」と記されていました。・・・の部分はクスノキの幹に飲み込まれて見えませんが、おそらく「第一回卒業生記念樹」と記されていたでしょう。そうするとこのクスノキの推定樹齢は丁度100年となります。

 植えた時にはクスノキと石標はかなり離れていたのでしょうが、100年の間にクスノキが大きくなり、石標が飲み込まれそうになっているのです。100年の間にクスノキがこんなに大きくなるのか! 石標を飲み込んでまで大きくなるクスノキの生命力を見せつけられ感動的です。

  

  (92-3) 入学式のころ咲いていた桜
時計台の裏庭に多数の桜の木があり、入学式のころきれいな花が咲いていた記憶があります。時計台の裏側は大幅に改築され、裏庭もずいぶん様子が変わっていましたが、十本位の桜の古木が残っていました。この桜の花を50余年前、学生のころに見たのでしょう。
 
この桜の樹種はソメイヨシノと思われますが、ソメイヨシノの寿命は6~70年と言われ、人間とあまり変わりません。これらのソメイヨシノはそろそろ世帯交代の時期を迎え、いつうまでも花を期待することは無理でしょう。学生時代に綺麗な花を咲かせてくれていたソメイヨシノに50年を経て再会できたことは、間に合ってよかったと考えるべきかもしれません。

  

 (92-4) 大きく育ったメタセコイア

 学生時代の記憶には全く残っていなかったのですが、法経建物周りにメタセコイアが大きく成長し美しい姿を見せていました。

 メタセコイアは京都大学の三木博士が1939年に化石から発見し命名された樹木で、絶滅したと思われていました。しかし1945年、中国奥地で生木が発見され、生ける化石と呼ばれるようになりました。

 日本各地には1960年ごろから戦後復興の象徴として「曙杉」と呼ばれて植栽されました。法経建物周りのメタセコイアは、私たちが学生だったころ植栽されたものと思われ、その当時はまだ目立たない小さい存在だったでしょうから、記憶に残っていないのもやむをえません。

 メタセコイアは針葉樹でありながら鳥の羽の様なエレガントな葉を持つ落葉樹です。まっすぐに空に伸びる樹形の美しさ、春の新葉、秋の紅葉も美しく、キャンパスに新しい樹木景観を生み出しています。

  

  (92-5) さながらミニ植物園
下宿から大学に行く途中の北部構内、いつもそばを通り「きれいな建物だな。大きな木があるな」と思っていた場所にも行ってみました。
 
山中のバンガローのような建物がそのまま残っていました(上写真左側)。建物は1931年築の旧農学部付属演習林事務所で、国の有形文化財に登録されている貴重な建物だそうです。周りにはエンピツビャクシン(鉛筆柏槇)、ハクショウ(白松)、アブラスギ(油杉)、センペルセコイア(ー)など外来の珍しい樹木が多数植えられており、さながらミニ植物園のような感じです。50年前のころより一段と大きな大木になって林立しています。
中でも最大の樹木はセンペルセコイア(上写真右側)で幹の直径が1mを越していると思われる巨木に成長しています。この樹種は世界でも最も大きくなる樹木の一つで、原産地北米では樹高100m以上のものもあるようです。
学生の頃なんとなく見ていたこれらの建物や樹木、今回50年ぶりに訪ね、改めてその貴重さと素晴らしさに気付かされました。学生時代のおぼろげな記憶が樹木との新たな出会いにつながりました。

以上の他にたくさん素晴らしい樹木がありましたが、スペースの関係から紹介できず残念です。

  

   樹木写真の属性
 樹  種  クスノキ(楠) [クスノキ科ニッケイ属]
 ソメイヨシノ(染井吉野)[バラ科サクラ属]
 メタセコイア(-) [スギ科メタセコイア属]
 センペルセコイア(ー)[スギ科セコイア属]
(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  京都市左京区吉田本町36番地1  
 撮影年月 (1)の一部:1966年2月 
それ以外:2016年11月
 投稿者   中村 靖   
 投稿者住所  横浜市都筑区中川中央
 その他