(83)危うく仁和寺の法師になりかけた
三瓶町・本宮神社の大杉

むかし京都・仁和寺の法師が長年の念願だった石清水八幡宮にお参りに出かけたのですが、麓にある末社にお参りし「かばかり」と心得、山上にある肝心の石清水にはお参りせず帰ってしまったという話が徒然草に出ており、徒然草の作者:吉田兼好は「少しの事にも、先達はあらまほしきことなり」と言っています。
過日、評判を聞いて島根県大田市三瓶町の本宮神社の大杉を一人で訪ねたとき、私も危うく仁和寺の法師になるところでした。   

  

 (83-1) 杉古木の鎮守の森

 地図に示されたそれらしい場所に来てみると、小高い丘の上に杉の古木特有の丸みを帯びた樹冠の杉の群れが見えてきました。
 参道の階段脇に数本の杉大木が並んでいる様子が、車が通る下の道からも見えていましたが、期待したほどのものではなく、いささかガッカリした気持ちでした。

 

(83-2) 木々の間に見える壁のようなもの
 
神社に行くには垂直かと思われるような急な石段が何段も有り、参道脇の杉大木を下から見ただけで帰ろうかとも思いましたが、ここまで来て神社にお参りしないのは申し訳が無いという気持ちがわき、登ることにしました。
急な石段を這い上って行くと、木々の間から茶色の壁のような異様なものが見えてきました。

 

 (83-3) 樹齢800年余の大杉
 
近付いてよく見ると、壁のように見えたものは巨大な杉の幹でした。石段を登りきって、その巨大な杉をまじかに観たとき、「おー」と言う感動の声以外は出ませんでした。
胸高周囲長8.85m、樹齢800年(伝承)、島根県の天然記念物に指定され、県下でも1,2を争う杉巨木です。平安時代の末期にこの地の豪族が、紀州熊野から神社の分霊を勧請したとき、杉を移植したとの伝承が有るようです。

  

 (83-4) 先端を失った杉巨木

 幹は楕円形をしており、横から見ると幹の太さは一段と大きく見え、参道石段側からみると、まさに茶色の壁のように見えます。

 主幹は地上から10m位の所で3本に分枝していますが、そのうち2本は落雷か強風の被害でしょう、先端が失われています。

 そのため幹の太さの割には樹高が短くなり、周囲の杉大木の中に隠れ、下からはその存在が見えなかったのです。

 今回の本宮神社の大杉、参道入口の杉大木を「かばかり」と思い、本命を見づに帰りそうになり、危うく徒然草に言う”仁和寺の法師”になるところでした。
 

     

   樹木写真の属性
 樹  種   スギ(杉) [スギ科スギ属]

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 樹木の所在地 島根県大田市三瓶町上山425
 撮影年月  2014年9月
 投稿者 木村 樹太郎 
 投稿者住所 島根県邑智郡川本町
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