(84) 絹産業の栄光を伝える
横浜・シルク博物館の桑の木

横浜港大桟橋近くにあるシルク博物館前に、絹の布を手に立つ女性像が有り、その周りに沢山のクワノキ(桑の木)が植えられています。なぜこんな所に桑の木が植えられているのか? 桑の木とシルク(絹)の関係が分かる人がメッキリ少なくなったこの時代、この桑の木は絹産業華やかなりし往時を伝える貴重な史跡樹木です。

     

  (84-1) 「絹と女」の像と桑の木
 
  「絹と女」と名付けられた女性像の回りには、沢山の桑の木が植えられており、若葉の時期ともなると青々とした桑の葉に包まれます。
明治維新の開港に伴い、横浜港には近隣の多くの絹糸や絹製品が集められ、ここ横浜港から輸出され貴重な外貨を稼いで日本近代化を支えて来ました。
横浜港から絹製品が輸出されることは、今ではほとんど無くなっているのですが、桑の木は絹産業が日本の主力産業であった往時の栄光を語る貴重な史跡樹木となっています。

   

(84-2) 桑の葉

 桑の葉は不規則な切れ込みがある独特の形をしています。蚕(カイコ)はこの桑の葉が大好きです。
 桑の葉を前に目をつむると「ザーー」という音が聞こえて来ました。
 桑畑で桑の葉を摘み取り、小さく刻んで蚕棚の蚕に振りかけると、やがて雨が降って来たような「ザーー」と言う音がしてきます。何百・何千の蚕が一斉に桑の葉を食べている音です。
 あの「ザーー」と言う音を聞かなくなってからずいぶん長い年月が過ぎ去りました。

  

  (84-3) 冬の桑の木
 
  冬、クワの葉がすっかり落ちてしまうと、今年伸びた枝は全部剪定され、桑の木は丸坊主になってしまいます。また来年新枝を伸ばし、柔らかい葉を沢山取るためです。
女性像の背後には大きな桑の木の古木が立っています。たびかさなる剪定のために幹は瘤だらけで、長年毎年枝を切られ、新たに伸びた枝から多くの桑の葉を作り出してきた苦労がにじみ出ています。
シルク博物館近くにある開港記念館に「蚕の化せし金貨なり」という明治時代の標語が書かれていましたが、桑の木としては「桑が化せし金貨なり」と言いたいところでしょう。

    

  (84-4) 桑から採れる絹
 
   桑の木と女性像をじっと見ていた観光客らしい二人連れ、
「ねー、ねー、絹って桑から採れるの?」「そうなんだー、知らなかったー」と言いながら通り過ぎて行きました。
私は「そうですよ! 絹は桑から採れるのですよ」と叫びたくなる気持ちをグットおさえ、その場に立ち尽くしました。

  

   樹木写真の属性
 樹  種  ヤマグワ(山桑) [クワ科クワ属]
 樹木の所在地 神奈川県横浜市中区山下町一番地 
 撮影年月  2014年3月,6月
 投稿者 中村 靖
 投稿者住所 横浜市都筑区中川中央
 その他