(90) 命を賭けて守られた樹木
日比谷公園の首かけイチョウ

東京・日比谷公園に「首かけイチョウ」と呼ばれるイチョウ巨木があります。”首かけ”と聞くと三条河原のさらし首を連想し、暗いイメージがわきますが、このイチョウそのような暗い話ではなく、樹木を愛する一人の男の心温まる物語です。

    

 (90-1) 松本楼前のイチョウ巨木

 日比谷公園内にあるレストラン松本楼前にイチョウの巨木が立っています。
 幹周:6.5m  樹高:20m  推定樹齢:420年 
 日比谷公園内では最大の樹木で有るばかりでなく、都内でも有数のイチョウ巨木です。しかしこの巨木、110年余り前まではここに立ってはいなかったのです。

 以前はこのイチョウは現在の位置より約450m離れた現在の日比谷交差点あたりに立っていたのですが、1901年(明治34年)に道路工事の邪魔になるとして、切り倒されることになったのです。その時、日比谷公園の設計者である本田静六氏が、日比谷公園への移植を願い出ました。
  

  

 (90-2) 命を賭けた移植

 重機も無い時代、何百トンもあるイチョウ巨木を500m近い距離運び、さらに活着させることはだれも不可能だと思い反対しました。本田静六氏は「移植に失敗したら私の首を差し出します」と覚悟のほどを示し、この難事業と取り組みました。
 450mの距離を25日かけて運び、現在の地に植直されました。そして次の春、淡い黄緑色の新葉が芽吹き、見事活着に成功したのです。

 冬、すっかり葉を落とし枯れているかのように見えたイチョウ巨木が、生きていることのあかしとして、春先になるとイチョウの淡い黄緑色の芽吹きが見られます。110余年前、移植後初めての芽吹きを見た本田静六氏の感激はいかばかりだったでしょう。

 本田静六氏が首を賭けて移植に取り組んだこのイチョウは、その後「首かけイチョウ」と呼ばれるようになりました。
  

  

  (90-3) 絵になる首かけイチョウ
イチョウの緑もすっかり濃くなり、松本楼の窓辺のフラワーポットに色とりどりの花が咲く季節となりました。
 
色鮮やかな花を咲かせる松本楼をバックに立つイチョウの姿は、都内でも有数の絵になるスポットです。この時期になればたくさんの絵画ファンがおしかけスケッチに余念がありません。
鮮やかな花を咲かせる草花の一瞬の輝きと、イチョウ巨木が表す400余年の時の流れを、一枚の画用紙の上に表現した素晴らしい絵ができることでしょう。

 

 (90-4) 光り輝く首かけイチョウ

 そして秋、今年もまた首かけイチョウの最大の見せ場がやってきました。
 全身を鮮やかな黄葉で包み、晩秋の光を受け光り輝く首かけイチョウは、本田静六氏の偉業を讃えているかの様です。

  

   樹木写真の属性
 樹  種  イチョウ(銀杏) [イチョウ科イチョウ属]

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 樹木の所在地  東京都千代田区日比谷公園  
 撮影年月   2014年1,4,5,11月
 投稿者   中村 靖   
 投稿者住所  横浜市都筑区中川中央
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