(106) 禅の心にも通じる奇樹
恩徳寺の結びイブキ

本州の西の端、下関市豊北町に小さい漁港があり、ここは室町時代に中国地方を支配していた大内氏の朝鮮交易の母港:肥中港として栄えた港です。その港を見おろす高台に恩徳寺があり、そこに「結びイブキ」と呼ばれる奇樹があります。

    

 (106-1) 恩徳寺とイブキ(息吹)

 恩徳寺は天文20年(1551年)開創と伝えられる古刹ですが、訪ねたときは人の気配も感じられず静まり返っていました。堂の前には庭を覆い尽くすように木が繁っており、燃える炎のように枝葉を伸ばしていることから、その木がイブキであることがすぐわかりました。

  

  (106-2) イブキの大木
イブキは前から見ると地面まで垂れ下がった枝葉で幹は見えず、どのような樹かわかりませんでしたが、後ろに回ってみると樹形がはっきりと見えました。
 
説明掲示板によると推定樹齢450年、幹周2.9mあり、イブキとしては中々の大木です。
幹の太さの割には樹高は6mと低く、全体にずんぐりとした感じです。このような樹形は落雷などにより主幹が失われた樹木では時々みかけますが、このイブキはそれとも違い、巨大なキノコのような独特の雰囲気を醸し出していました。

 

 (106-3) 枝を結び合わせたようなイブキ

 近付いて仔細に見て、その異形ぶりに唖然とさせられました。何本かの太い枝が複雑にからみあい、上から強い力で押しつぶしたようになっています。「結びイブキ」と言うのは”枝を結び合わせたイブキ”と言う意味だったのです。イブキは幹や枝が曲がりくねり、荒々しい樹形になりやすい樹木ですが、 このような特異な樹形のイブキは極めて珍しく貴重であり、昭和30年(1955年)に国の天然記念物に指定されています。

 天明4年(1785年)に記された恩徳寺縁記には「境内ニ稀樹円枱アリ、大サ五尺マワリ余・・・其枝オ前後ニ結びコシラエタルモノニシテ稀有ノ珍木ナリ」とあり、円枱というのがこのイブキとみられ、来歴の古いことが知られています。

  

  (106-4) 禅の心に通じるイブキ
イブキは別名ビャクシン(柏槇)ともよばれ、厳しい環境でも耐え、荒々し姿の古木も多数みられる樹です。そのようなビャクシンは禅の心に通じるとして、禅宗の寺に多く植えられています。
 
恩徳寺のイブキも複雑に絡み合う枝には空洞ができ、樹皮も剥げ落ち(上写真左)、ほとんど枯れているように見えますが、生き延びたわずかの枝には緑の葉を付け、イブキ特有の白い実も結び(上写真右)、しぶとく必死で生きています。このイブキを姿形が珍しい単なる珍木としてでなく、禅の心にも通じる希樹としてみると、その趣も格別です。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 イブキ(息吹)[ヒノキ科ビャクシン属]

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 樹木の所在地  山口県豊北町神田肥中  
 撮影年月   2016年8月
 投稿者   木村 樹太郎   
 投稿者住所  島根県邑智郡川本町
 その他