(107) 不思議な伝説で結ばれた
有福と西本願寺の大イチョウ

島根県・有福温泉の地に一本のイチョウ巨木がありますが、このイチョウ巨木は不思議な伝説で京都の西本願寺のイチョウ巨木と結ばれています。両方のイチョウを見に行きました。

  

  (107-1) 有福温泉の大イチョウ
東西に長い島根県の中央部の山間に鄙びた有福温泉がありますが、この温泉はおよそ1360年前、諸国行脚の僧が発見したと伝えられる古い温泉です。その地に、古い温泉の歴史を伝えるかのようなイチョウの巨木が立っています。
 
このイチョウには不思議な伝説があります。「むかし天の神様が雌・雄2粒のイチョウの実を落とし、雌株が生じた所を都にすることとしました。一粒は有福の地に落ち、こちらのイチョウからは雄株が育ちました。もう一粒は京都の西本願寺の地に落ち、こちらのイチョウの実からは雌株が育ちました。こうして京都が都になり、有福の地は都にはなれませんでしたとさ」

 

 (107-2) 3世代仲良く並ぶイチョウ

 イチョウの大木は有福温泉公民館の裏の小高い所に立っており、遠くからも良く見えているのですが、そこに行く道が良くわかりません。誰かに道を聴こうにも人影もありません。あちらこちら探してやっとたどり着きました。
 大イチョウは伝承樹齢1000年、幹周10m、樹高12mであり、近づいて観ると圧倒されるような巨樹です。沢山の気根を垂らしている様子はこの木の古さを物語っています。大イチョウの根元からは大小2本のひこばえのイチョウ(大きい方は幹周5m、小さい方は幹周1m)が伸び、まるで親・子・孫3代のイチョウが並んでいるようで壮観です。
 根元には小さい祠が祀られ「銀杏大明神」として地域の人に崇敬されてきたようです。

 

  (107-3) 西本願寺の大イチョウ
有福のイチョウの伝説によれば、もう一方のイチョウの実は京都西本願寺の地に落ちたそうですが、はたして西本願寺にイチョウの大木が有るか?確かめに出かけました。
 
西本願寺に行ってみると、御影堂の前と阿弥陀堂の前に2本のイチョウ大木がありました。どちらも幹周3mは超えていると思われる堂々たるイチョウ巨木です。2本の内どちらが伝説のイチョウかは分かりませんでしたが、確かに西本願寺にもイチョウの巨木がありました。訪ねたときイチョウは見事に黄葉し、ひっきりなしに訪れる観光客はイチョウに見入ったり写真に収めたり、華やかで賑やかなことこの上もありません。
西本願寺のガイドの人に「有福のイチョウとその伝説」を知っていますか?と尋ねたら、「知りません」との回答でした。予想していたことながら一抹の寂しさを禁じえませんでした。

 

 (107-4) 福ありのイチョウ

 訪ねる人もなくひっそりと立つ有福のイチョウと、ひっきりなしに訪れる観光客に愛でられ、華やかで賑やかな西本願寺のイチョウの両方を見て、有福のイチョウにまつわる伝説の後半が心に浮かんできました。

 「都になれずしょげている雄イチョウを見て神様は『都になり華やかで賑やかな方だけが幸福とは限らないのだよ。自然豊かで静かな地で、泰然と生きていく雄株の方こそ真の福が有るのだよ』と言われました。それ以来、雄株の育つこの地を、誰言うとなく有福と呼ぶようになったとさ」

  

  樹木写真の属性
 樹  種 イチョウ(銀杏) [イチョウ科イチョウ属

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地 (1)島根県江津市有福温泉町
(2)京都市下京区堀川通 西本願寺  
 撮影年月   (1):2015年12月
  (2):2016年11月
 投稿者   中村 靖   
 投稿者住所  横浜市都筑区中川中央
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