(117) 地域の稲作文化を語り伝える
江津市・今田水神の大ケヤキ

稲作では水は非常に大事なものであり、水の安定した確保を願って各地に水神がまつられ、仲には豊かな水を象徴するような巨木を伴ったものもあります。島根県江津市の今田水神は御神木を思わせるケヤキの巨木を伴い、今に地域の稲作文化を語り伝えています。

 

 (117-1) 川のほとりの岩盤に立つケヤキ群

 江の川(ごうのがわ)の支流・八戸川のほとりに小山の様な岩盤があり、その上に一群のケヤキの木が立っています。ケヤキの木はこの地域では比較的珍しい木であり、ひときわ高くこんもりと茂るケヤキの木は、春の新緑や秋の紅葉が美しく目立つ存在です。
 岩山の背後には広々と水田が広がっており、その水田への水の取り入れ口がケヤキの木の下に作られており、左写真右下の2本の白い柱が水門のゲートです。

写真撮影:2016年5月
 

  

 (117-2) 圧倒的なケヤキの巨木
川に面した側は高い断崖になっており近付けないのですが、背後からケヤキの木に近づくことができます。近付いて見ると岩盤の上には大小6本のケヤキの木が立ち、岩を覆いつくす様に広がり、どこからが岩でどこからがケヤキの木か定かでないほどです。その巨大さと苔むす存在感に訪れる人は圧倒されます。
 
岩盤の上には大小6本のケヤキが立ち、そのうち最大のものは「今田水神の大ケヤキ」と呼ばれ、胸高幹周8.6m、樹高21.3m、推定樹齢500年であり、県下では最大級のケヤキです。さらに6本のケヤキはすべて根がつながっていると言われ、これは岩盤の上に立つケヤキの根が岩の上を横に広く広がり、そこからヒコバエを成長させて形成されたものと考えられています。6本ものケヤキが根続になっていることは全国的にも大変珍しいことの様です。今田水神の大ケヤキは単幹の大きさもさることながら、その珍しい形態もあり、島根県の天然記念物に指定されています。
写真撮影:2015年12月

 

 (117-3) 稲作の水を守る水神

 ケヤキの巨木の根元で川に面したところに、石でできた小さな祠がありますが、これが水神を祀る祠でしょうか。記録によれば延宝7年(1679年)にこの地点に今田地区灌漑用水の取水口が作られたそうですから、水神の祠もそのころ設けられたものと思われます。
 340年前ころ、水神の祠が設けられたころには一部のケヤキの木はすでに存在し、かなりの大木になっていたと思われます。その後、岩と石の祠とケヤキ巨木は混然一体となり、水の守り神として地域の人々の尊崇を集めてきたのでしょう。

写真撮影:2012年10月

  

  (117-4) 秋の実りを見守るケヤキ巨木
この地域に広がる水田からも大ケヤキは良く見えます(下写真中央の黒瓦の家の背後)。地域の人々は遠くからも良く見える大ケヤキを目にし、おりにふれ水神への感謝と畏敬の気持ちを強めてきたことでしょう。大ケヤキは取水口の岩盤の上にひときわ高くそびえ、豊かに実る水田を見守り続け、この地域の稲作のシンボルとなったのでしょう。
今年もまた豊かな稲の実りを見届け、樹齢500年余のケヤキ巨木はまたひとつ年輪を重ねました。
写真撮影:2016年8月

  

  樹木写真の属性
 樹  種 ケヤキ(欅) [ニレ科ケヤキ属

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 樹木の所在地 島根県江津市桜江町今田231
 撮影年月 本文に記載
 投稿者 木村 樹太郎
 投稿者住所 島根県邑智郡川本町
 その他