(133) 訪ねる人を詩人にする
新宿御苑のプラタナス並木
プラタナスはスズカケノキ属の樹木の総称ですが、世界4大街路樹のトップに挙げられる樹木として良く知られています。明治以降、日本にも導入され多くの場所で街路樹として植えられていますが、一般に日本の道路は狭いため強度に剪定されたり排気ガスの影響を受けたりして、プラタナスの魅力が十分に発揮されていないようです。新宿御苑には樹齢100年を超える本格的なプラタナス並木があり、プラタナスの本来の魅力に接することができます。

    

  (133-1)フランス式整形庭園とプラタナス並木
新宿御苑の南東部にフランス式整形庭園がありますが、そこでは中央に大きなバラ花壇が配置され、花壇の両側に約200mにわたってそれぞれ4列のプラタナス並木があります。この庭園は1906年完成ですから、プラタナス並木もその時期に植えられたものと思われ、樹齢は100年を超えていることになります。約160本のプラタナス大木が8列に整然と並ぶ、きわめて重厚な庭園です。
 
プラタナスの自然樹形は卵形で樹冠が丸くなりますから、円錐形の樹形を見せているここのプラタナスは適度に剪定・成形されているのでしょう。きつちりと形をそろえたプラタナスが一直線に整然と並ぶ様は、日本庭園とは対極をなす庭園様式美を表しています。

  

 (133-2) プラタナスの木陰
プラタナス並木の中に入ると、樹齢100年を超えるプラタナス大木が醸し出す安定感と、何重にも緑に囲まれた安らぎの空間があります。木陰のベンチに腰掛けてしばし物思いにふけると、もし俳句のたしなみがあれば一句浮かぶことでしょう。
プラタナスはヨーロッパ南東部から西アジア地域が原産の樹木ですが、古代ヨーロッパでは盛んにプラタナスが植えられ、哲学者ソクラテスやプラトンはプラタナスの木陰で哲学を講じていたと伝わっています。

  

 (133-3) プラタナスの特徴

 プラタナスというのはギリシャ語で”広い”を意味する”platys”から来ているといわれるように、大きな葉と、迷彩色のような木肌の模様が印象的です。
 大きな葉にはモミジのように切れ込みがありますが、スズカケノキは切れ込みが深く、アメリカスズカケノキは切れ込みが浅く、両者の交雑種であるモミジバスズカケノキでは切れ込みは中くらいです。
 修験者の鈴懸に似た球状の果実は、葉が落ちた後も長く木にぶら下がり風情があります。

  

 (133-4) プラタナスの紅葉
プラタナス並木のハイライトは秋の紅葉でしょう。プラタナスの紅葉は黄褐色でそれほど色鮮やかではないのですが、大きな枯れ葉が音を立てて舞い落ち、地面に散り積もる光景は秋の深まりを感じさせるに十分です。
シャンソン「枯葉」は、若いころ愛し合った二人が、時を経て再び出会った時には北風に吹かれて舞う枯れ葉のようであったと慨嘆する歌だそうですが、この歌もプラタナスの枯れ葉をモチーフとしたものではないでしょうか。

 

 (133-5) 枯れ葉舞うプラタナス並木
 
 枯れ葉舞うプラタナス並木に悄然と佇んでいたら、心の底から懐かしい歌が聞こえてきました。
はしだのりひことシュウベルツ「風」
一番
人は誰もただ一人 旅に出て
人は誰もふるさとを 振りかえる
ちょっぴりさみしくて 振りかえっても
そこにはただ風が 吹いているだけ
人は誰も人生に つまづいて
人は誰も夢破れ 振りかえる

二番
プラタナスの枯葉舞う 冬の道で
プラタナスの散る音に 振りかえる
帰っておいでよと 振りかえっても
そこにはただ風が 吹いているだけ
人は誰も恋をした 切なさに
人は誰も耐えきれず 振りかえる

  

   樹木写真の属性
 樹  種 モミジバスズカケノキ(もみじ葉鈴懸の木)[スズカケノキ科スズカケノキ属

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 樹木の所在地  東京都新宿区内藤町11 新宿御苑 
 撮影年月   2018年6月、11月
 投稿者  ①中村 靖
 ②殿塚 勲  
 投稿者住所 ①神奈川県横浜市都筑区
②東京都国立市 
 その他