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 (158)70余年前の悲しい思い出
小さい沢山の実をつける柿の木

ある種の樹木や特定の樹木に会った時、昔のことなどが思い出される樹木は「思い出の樹木」と呼ばれますが、私の場合、小さい沢山の実をつける柿の木が思い出の樹木です。長い年を経て思い出の樹木に出会った時は実に感動的です。

 

 (158-1) 思い出の樹木

 散歩の途中、近所の方の庭にあった小さい柿の実を付けた鉢植えを見た時、「ア!!あの柿の木だ」と叫び、70余年前の悲しい思い出が一気に蘇ってきました。

 あれは私が6才、昭和22年(1947年)の秋のことでした。ソ連によりシベリヤに抑留されていた父が死んでいたとの知らせが来ました。戦争も終わって2年以上も経つので、今日帰るか・明日帰るかと待っていた私たちは悲しみのどん底に突き落とされました。

 

  (158-2) 頂いた一枝の柿
母は歩いて2時間以上かかるところに遺骨を引き取りに行きました。私と弟は村はずれまで迎えに行きました。弟と二人、道端に立って待っていたとき、どなたかが赤い小さい実を沢山付けた柿の一枝を下さいました。悲しく寂しい思いをしていた時に頂いた柿の一枝は、私の心を慰めてくれとても嬉しかったことを覚えています。
小さい柿の実を一つ取って弟にやったら、弟も大事そうに持っていました。
 

  

 (158-3) 小さい柿の実

 柿の実は本当に小さく、親指の先位の大きさだったように覚えています。今、調べて見ると小さい実をつける柿の木にはマメガキ(豆柿)やロウヤガキ(老鴉柿)などがありますが、70余年前私がもらった柿の木がどの種類の物であったかは分かりません。近所のお宅で見た柿はロウヤガキのようです。

 

  (158-4) 心に残る柿の木
どれくらい待っていたでしょう。待ちくたびれた頃、母が白い布に包まれた小さな箱を胸に抱えてトボトボと帰ってきました。母は私と弟が立っている前に止まり、涙声で「お父さんが帰ってきたよ」と言いました。私はそれまでこらえていた涙が一気に流れ落ち、泣き出してしまいました。
 
枝にいっぱいついている小さい赤い実は、悲しみの中にポット灯った小さな希望の光に思えたのでしょう。この柿の木のことはその後もずっと忘れることが有りませんでしたが、故郷・島根を遠く離れたこともあり、実際に同じような柿の実を見ることは有りませんでした。しかしこのたび思いがけず近い所で、70数年ぶりにあの柿の木に出会えたのは不思議です。あの母も昨年99才で他界しましたが、きっと天国から「あの柿の木はここにあるよ」と教えてくれたのでしょう。
(上写真はマメガキ(豆柿)、Webより)

  

   樹木写真の属性
 樹  種 ロウヤガキ(老鴉柿)orマメガキ(豆柿)[カキノキ科カキノキ属]

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  埼玉県春日部市備後東
 撮影年月  2021年12月
 投稿者  古田 和子   
 投稿者住所  埼玉県春日部市備後東
 その他