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 (160)お殿様もご執心だった奇樹
小田原市・早川のビランジュ

小田原市に珍しいビランジュ(毘蘭樹)の巨木があると知り、しかもその巨木がある地名が「飛乱地(びらんち)」であると知り、何か面白い話がありそうだと興味をそそられ見に行きました。

 

 (160-1) 予想外の悪路を登る

 カーナビに案内され自動車で行ける所まで行ったのですが、ビランジュの巨木らしきものは見当たりません。通りがかりの人に聞くと「ビランユはあれです」と指差された方を見ると、高架橋の向こうに緑の塊が見え、どうやらそれが目指すビランジュの様です。
 ぬかるんだ急な坂道を登り、自動車道(ハコネターンパイク)の高架橋の下をくぐり、さらに急な階段を登った先に目指すビランジュがありました。

 

 

 (160-2) 驚くほど巨大なビランジュ

 近付いてみると目指すビランジュの奇怪さに驚かされました。赤褐色のペンキを塗ったような異様な姿と、予想外の巨大さに圧倒されました。
 幹周5.2m、樹高25m、推定樹齢350年、ビランジュとしては稀に見る巨木です。またビランジュは主に西日本から南西諸島に生育していて関東地方では珍しい存在であり、国の天然記念物にも指定されています。

 ビランジュはバクチノキ(博打の木)の別名ですが、この木は次から次へと表皮がはげ落ち、赤褐色の樹皮がむき出しになる特徴があり、その様が博徒が博打に負けて身ぐるみ剥がされる様に似ていることから、バクチノキの名が付けられました。
 一方、ビランジュの語源ははっきりしませんが、皮膚が焼け爛れることを「びらん(糜爛)」というので、それからきているとの説があります。

 いずれにしろビランジュの赤褐色の樹皮の色は美しさを通り越してギョッとするような色であり、見る人に強烈な印象を与えます。

  

  (160-3) 断崖にはりつくビランジュ
このビランジュ、樹皮のどぎつい色に驚かせられましたが、それに加え非常に急な崖に立っていることも大変な驚きでした。ビランジュのすぐ背後は大きな岩がむき出しの垂直に近い崖で、ビランジュの背後に回って写真を撮りたいと思ったのですが、とても無理であきらめました。これほど厳しいところに立っている巨木も滅多に見ません。
 
この崖の上には、秀吉の小田原城攻めで有名な一夜城があった場所ですが、秀吉が一夜城を作ったころ(約430年前)にはまだこのビランジュは無かったでしょう。

  

 (160-4) これでも桜の親戚

 このビランジュ、これだけの大木であるからにはかなりの老木であろうと思われますが、見上げるとビランジュの葉が青々と茂っており、樹勢は非常に旺盛です。葉は手のひら大の長楕円形で、ツバキ(椿)のように分厚く表面に光沢があり、一目で常緑樹と分かります。

 残念ながら訪ねた時(2月)には花を見ることはできませんでしたが、驚くことにはビランジュはバラ科の樹木でサクラ属の親戚であり、ウワミズザクラに似た美しい白い花を咲かせるそうですから、花の時期(9,10月)に尋ねるのも面白いでしょう。

 

  (160-5) 小田原の町を眼下に見るビランジュ。
ビランジュが立っている所からは小田原の町が良く見渡せます。逆に町中からもこのビランジュが見えているのでしょう。地域の人々にもビランジュの存在は良く知られていたようで、この樹がある一帯の地名が「早川字飛乱地」となったこともこのビランジュに由来しています。
 
すぐ近くを東海道が通っていたこともあり、江戸時代にはその存在が知られかなり有名な存在だったようで、参勤交代の途次にこのビランジュを見るのを楽しみにしているお殿様もいたと言われています。
また、この地方を治めていた殿様もビランジュにご執心で、ある日、領内見回りの者に対し、「ビランジュは如何しておるか?」と尋ねた所、「は??、さような寺は領内にはございませんが??」と答えたので、「バカ者!!、ビランジュも知らで領内見回りが勤まろうか」と大目玉をくらったとの逸話も残っています。。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 バクチノキ(博打の木)[別名:ビランジュ]
[バラ科バクチノキ属]

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  神奈川県小田原市早川字飛乱地1374
 撮影年月  2022年2月
 投稿者  中村 靖   
 投稿者住所  横浜市都筑区中川中央
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