(73) 樹木芸術の域に達する
出雲平野の築地松

出雲平野の家々には、冬の季節風を防ぐ「築地松(ついじまつ)」と呼ばれる松の防風林が見られ、その姿は独特の樹木景観を生み出しています。築地松を実際に見ると、それは単なる防風林ではなく樹木芸術の域に達し、かけがえのない文化遺産でもあることを知らされます。

    

(73-1) 黒松の巨大生垣

 出雲平野のそこかしこに、綺麗に刈り込まれた黒松の巨大な生垣が見られますが、これが築地松と呼ばれるものです。常緑の松が四季を通じて独特の樹木景観を生み出し、特に秋、田園の稲が黄色に染まると松の緑が一段と引き立てられます。

 築地松は街路樹などと異なり、個人の住宅の植栽ですが、何か基準があるかのように、多数の築地松が整然と立ち並ぶ様は壮観です。

  

  (73-2) 家の風格を高める築地松
 
  こちらのお宅では、低いヒイラギの生垣と高い築地松が2層になり、典型的な築地松が見られます。高くそびえる松が綺麗に刈りそろえられ壁のように並ぶ様は、屋敷に凛とした美しさと格式を生み出しています。
ロールオーバー画像(マウスポインタを画像に合わせると、画像が変わります):
正面から見ると築地松は家の屋根を少し超える高さを持ち、西側と北側に位置し、冬の北西の風を防ぐ役割を果たしていることが良くわかります。
家の周囲に配置した低層の生垣、前庭の綺麗に剪定された庭木、そして背後に立つ高層の築地松、これらの組み合わせは家の美しさを最高に高め、まさに樹木芸術と言えるものです。

  

(73-3) 黒松の壁

 遠くから見ると優美な築地松ですが、近づいて見ると松の木の壁の大きさに圧倒されます。多くの築地松はその高さが8〜10mもあります。これだけの規模のものを素人が管理・手入れすることは不可能であり、専門の職人が「陰手狩り(のうてごり)」と呼ばれる剪定・手入れを4〜5年置きに行い、美しい築地松を維持しているそうです。

ロールオーバー画像:このお宅の築地松は増築などのためでしょうか、北側の生垣が作り直されています。新たに植えられた松はまだ樹高2〜3mと小さいのですが、20〜30年後には西側の松と同じ高さになり、リニューアルした優美な築地松が完成することでしょう。
  

    

(73-4) 北西側から見た築地松

 また別の場所で築地松がある家を北西側から見ると、家屋が完全に松の木に覆われ、北西の風から完全に家が守られています。 築地松がある家は冬は暖かく、夏は涼しいそうです。
 居住環境の快適さや冷暖房費など、築地松がある家と無い家の差は歴然としているでしょう。
  

  

  (73-5) 樹木の芸術作品
 
  こちらは陰手刈りをして間がない築地松でしょう。きれいに切りそろえられた様から清々しさを感じます。低層の生垣が直線・直角で仕上げられているのに対し、築地松は微妙な曲線を描き、両端が鋭角にとがっているいるなど、まさに樹木の芸術作品です。
このような素晴らしい築地松ですが、近年の諸困難から年々その数が少なくなり、絶滅が心配されているそうです。関係者が力を合わせ、後世に伝えなければならな貴重な樹木文化です。

  

   樹木写真の属性
 樹  種  クロマツ [マツ科マツ属]

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 樹木の所在地  島根県出雲市斐川町ほか 
 撮影年月   2015年9月
 投稿者  木村 樹太郎 
 投稿者住所  島根県邑智郡川本町
 その他