(129) 空也上人没後の千年に思いを馳せる 鳥取県・転法輪寺の樹々 鳥取県琴浦町の大山の東山麓にある転法輪寺は、平安時代中期に活躍した空也上人の入滅の地とされる由緒深い寺です。ここには寺の由緒の深さを語り、千年前に活躍した空也上人に思いを馳せる、数々の巨木・古木を見ることができます。 |
(129-1) 転法輪寺の大イチョウ 転法輪寺を訪ねてまず目に入るのが本堂前に立つイチョウ巨木です。スラリトと伸び均整の取れた美しい樹形のイチョウの幹の太さは、この寺の由緒の深さを語るに十分な大きさです。樹高24m、幹周り5.6m、鳥取県では有数のイチョウ巨木として、鳥取県の天然記念物に指定されています。 イチョウは寿命が非常に長い樹種であり、推定樹齢千年以上のものも各地に多数見られます。転法輪寺の大イチョウの樹齢ははっきりしませんが、空也上人入滅後の千年に思いを致すに相応しい樹木です。 イチョウの見事な黄葉を期待して訪ねたのですが、黄葉には少し早すぎたようです。 |
イチョウは雌雄異株で転法輪寺のこのイチョウは雄木だそうです。近在にはイチョウの雄木がなく、この地域では貴重な受粉木となっているとのこと。イチョウは1km位離れていても受粉できる、驚異的な子孫維持力を持っています。イチョウは地球上に現存する数万種の樹木の中で最も起源が古い樹種ですが、この驚異的な子孫維持力が2億年あまり地球上に存続できている大きな理由でしょうか。 |
(129-2) 大イチョウと並び立つムクロジ大木 大イチョウの脇にムクロジの大木が立っていました。こちらはイチョウの黄葉が遅いのをカバーするかのように、見事な黄葉を見せてくれていました。幹の太さは大イチョウと比べると数分の一位ですが、樹高は大イチョウと肩を並べる大きさであり、十分な存在感を示していました。 ムクロジとしてはめったに見ない大木であり、琴浦町の天然記念物にも指定されています。 |
(129-3) 上人塚を守る大イヌグス 転法輪寺の境内から数百メートル離れた畑の中に塚があり、その塚の上には空也上人の墓とされる五輪塔があり、その五輪塔を挟んで2本のイヌグス(タブノキ)大木(鳥取県指定天然記念物)が立っていました。 この地に残る伝承では、空也上人がこの地で杖を地面に立て、念仏を唱えながら入滅され、その杖が芽吹き大木になった、と言われており、「空也上人生きづえの木」として今日まで伝わっているものです。 杖が芽吹いたとの伝説はさて置くとしても、眼前のイヌグス大木は幹には空洞ができ、大枝は折れ、大変な古木です。空也上人入滅直後にイヌグスが植えられ、今日に至っていることもあり得る雰囲気を漂わせています。空也上人の没年は天禄3年(972年)ですから、このイヌグスの樹齢は千年を超えていることになります。 |
後日、日本の代表的なイヌグス(タブノキ)古木の推定樹齢を調べて見たら、ほとんどのものが樹齢500年~700年であり、空也上人の墓所のイヌグスが樹齢1000年を超えていると考えるのは無理なようです。 しかしこれは「空也上人入滅の時(今から約千年前)にイヌグスの木が植えられ、それが寿命で枯死したため、いまから500年前頃イヌグス2世が植えられ今日に至っている」と考えると納得がいくのではないでしょうか。実際、各地にある様々な史跡樹木は、それが枯死すると後継樹として2世、3世の木が植えられることはよく見かけることです。 |
(129-4) 聖人塚を取り囲むおびただしい数の墓石 上人塚の周りにはおびただしい数の墓石がありました。多くは苔むし、墓石か自然石か分からないほどに風化したものも交じり、中には最近花を供えたものまでありました。 |
(129-5 ここにも墓地を守るイヌグスが 上人塚から数百メートル離れたところに小さい墓地があり、墓地を覆うように大木が立っていました。近づいて見ると、その大木もイヌグスでした。かなりの大木であり、樹齢は200年くらいでしょうか。墓地を守るかのように大きく枝を伸ばし、育ち盛りの美しい樹冠を見せていました。 |
上人塚にイヌグスが植えられてから200年後、今から800年前の上人塚のイヌグスの姿はこの様であったであろうと、800年前にタイムスリップした気持がして、しばし若々しいイヌグスに見入りました。 |
樹木写真の属性 | |
樹 種 | イチョウ(銀杏)[イチョウ科イチョウ属] ムクロジ(無患子)[ムクロジ科ムクロジ属] タブノキ(椨の木)[クスノキ科タブノキ属] (「樹木の見所」のページにリンクしています) |
樹木の所在地 | 鳥取県琴浦町別宮 転法輪寺 |
撮影年月 | 2018年11月 |
投稿者 | 木村 樹太郎 |
投稿者住所 | 島根県邑智郡川本町 |
その他 |