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 (141) 豊富な着生植物に心和む
下関市・滝部八幡宮のイチイガシ(一位樫)

滝部八幡宮にはちょっとレアなイチイガシ(一位樫)の巨木があります。このイチイガシはカシ(樫)の木が貴重な存在であった昔のことを今に伝える巨木としても十分魅力的ですが、多くの着生植物と共生し樹木の優しさを顕していることも秘めた魅力です。

 

 (141-1) 神社のシンボルとなるイチイガシ

 滝部八幡宮は鎌倉時代中期(1263年)の創建といわれ、社殿はきれいに整備され、楼門は白木も美しく比較的最近建て替えられたと思われ、この神社は地域の人々に大切に護持されてきたことが良くわかります。
 そのようの神社の本殿の左前方にひときわ高くそびえているのがイチイガシ(一位樫)の巨木です。近年ではイチイガシと言うのはあまり聞きませんが樫類(樫の木の仲間)です。
 樫類にはシラカシ(白樫)、アラカシ(荒樫)など8種類ありますが、それらの中でイチイガシが最も大きく育ち、風格ある樹形を作ることから、神社のシンボルとして植栽されたものでしょう。

 

  (141-2) 風格あるイチイガシ巨木
滝部八幡宮のイチイガシも期待に違わず堂々とした巨木に育っています。幹周り5.3m(幹の直径約1.7m)、樹高約18m、推定樹齢700年以上、樫の木としてはまれに見る巨木であり、山口県下のトップクラスの樫巨木として県指定天然記念物になっています。
 
カシ(樫)はその字が示すように、材質が非常に堅いため、昔は農機具、工具や船の櫓の材料として賞用されてきました。農林漁業が中心であった昔の人々の樫の木に対する畏敬と感謝の気持ちは、今日の私たちには想像もつかないほどだったでしょう。神社に残るイチイガシ巨木が昔の人々の樫の木に対する厚い思いを今に伝えています。

  

 (141-3) 葉裏が黄褐色のイチイガシ

 イチイガシの葉裏には星状毛(星状に生えた産毛)が密生しているため、左写真に示すように葉の表と裏では色が大きく異なり、葉裏が黄褐色をしています。この特徴に注目すると他の樫類と比較的容易に識別できます。
 イチイガシの木を下から見上げると、葉裏が見えるため、下写真に見るように樹木全体がベージュ色の葉に包まれ、柔らかい雰囲気をかもし出しています。

  

 
(141-4) 豊かな着生植物と共生するイチイガシ

 ここのイチイガシ巨木の秘めた魅力は着生植物の多さでしょう。左上側写真に見るように枝のあちらこちらにフーランやノキシノブが多数着生しています。また左下側写真に見るように大枝の付け根のところにはイチイガシの葉とは明らかに異なる葉をつけた、マサキ(正木)と思われる小さい木が見られます。これは大枝のくぼ地に溜まった落ち葉が腐葉土になり、そこに木の種が落ちて発芽し根付いたものでしょう。

 イチイガシの木の下から見上げると、イチイガシの葉がベージュ色を帯びて見えるため、着生植物の緑の葉がはっきりと見えます。樹齢700年の巨樹と樹齢10年に満たない幼樹、そしてまったく異質なフーランやノキシノブ、多様な生命が共生している姿には心和むものがあります。

 大きなものが小さいものを襲い、強いものが弱いものを食べる動物の世界と違い、樹木は決した他者を襲ったり食べてしまうことはありません。そのことがあるため私たちは樹木に対して何の心配も恐れもなく接することができるのでしょう。豊かな着生植物と共生する滝部八幡宮のイチイガシは、改めてそのことを教えてくれています。

   

   樹木写真の属性
 樹  種 イチイガシ(一位樫)[ブナ科コナラ属]

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  山口県下関市豊北町大字滝部3158  
 撮影年月  2016年8月
 投稿者  木村 樹太郎   
 投稿者住所  島根県邑智郡川本町
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