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 (145) エノキと間違われ巨樹になった
神奈川県・鶴巻の大ケヤキ

鶴巻温泉は大山山系のふもとに広がるこじんまりとした温泉地です。そこに「鶴巻の大ケヤキ」と呼ばれるケヤキ巨樹があると知り会いに行きました。このケヤキは神奈川県下最大のケヤキ巨樹と聞いていましたので、鎮守の森などに高くそびえる巨木を想像していましたが、訪ねてみるとそれは予想とはかなり異なるものでした。

 

 (145-1) 路傍に立つ大ケヤキ

 目指す「鶴巻の大ケヤキ」は巨大なキノコのような形で県道傍に立っていました。まわりには住宅や畑が広がり、このケヤキ以外に目立った樹木もなく、訪ねるまで想像した鎮守の森に立つケヤキ巨木とは大きく異なっていました。
 ケヤキ巨木の前に「つるまき幼稚園」の標識が立っていましたので、このケヤキは幼稚園の敷地内に立っているのかと思ったら、そうではなく、このケヤキ巨木のために作られたと思われる小さい公園に窮屈そうに立っていました。

 

  (145-2) 巨大な幹
木のそばに立ってみると圧倒されるような巨樹です。幹周10m、樹高30m、推定樹齢600年、神奈川県下で最大のケヤキであり県の天然記念物に指定され、「かながわの名木100選」にも選ばれています。幹の中の空洞を覆い隠すかのようにできた大きなこぶも、この木の巨大さを際立たせています。
それにしてもこれだけの巨樹が路傍にポツリと一本だけ、なぜ存続できたのか疑問がわいてきました。
 
人里に残る巨樹・巨木の大部分は神社仏閣に属する樹木です。というのは、スギ(杉)やケヤキ(欅)などの有用木は材木になるほどの大きさになると、人に切られ材木に利用されるため、神社仏閣に属さない人里の木が巨樹・巨木になるまで生き延びることは非常に少ないのです。

  

 (145-3) 落雷で主幹が失われた大ケヤキ

 このケヤキは幹の太さのわりに樹高が低く、説明掲示板には樹高は30mとなっていますが、それほどの高さがあるとは思えず、せいぜい20mくらいでしょう。
 近所に住む方に話を聞くと「30年くらい前に落雷がり主幹が失われた。その時には家の水道管も壊れ大変でした」とのこと。
 このケヤキは広い平地の中に一本だけ立っているので、ことのほか落雷の被害を受けやすかったのでしょう。おそらくこのケヤキが生きてきた600年の間に何回も落雷を受け、高く伸びた幹や枝を次々と失い、いまのキノコのような樹形になったのでしょう。
 さらに「この地域では昔からこの木を『落幡の大エノキ』(落幡はこの地域の地名)と呼んでいた」とのこと。それを聞いてこの木のもう一つの疑問が解けてきました。

  

  (145-4) エノキと間違わ生き残ったケヤキ
ケヤキ巨樹の前に年代を感じる石碑が立っており、「天照皇大神」、「大己貴命」などの文字が読み取れました。この石碑は古くからこの木が信仰の対象となっていたことを物語るものでしょう。
昔からエノキは神が宿る木として神聖視され、村境や橋のたもと、土地の境界などに好んで植えられました。
想像するに、このケヤキはエノキと間違われ、村境などの目印として植えられたのではないでしょうか。目印の木なら簡単に切ることができないので、100年200年と経つうちにいつしか土地のシンボルとして、人々の信仰を集める存在になったのではないでしょうか。
 
人間の伐採をのがれ、今日、幹周10mに達する巨樹になったこのケヤキ、日本のケヤキ巨樹の中では27番目くらいの巨樹ですが、もしこれがエノキだったら、間違いなくダントツで日本一であることを思うと、少々残念な気がします。

 

   樹木写真の属性
 樹  種 ケヤキ(欅)[ニレ科ケヤキ属

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  神奈川県秦野市鶴巻南4丁目  
 撮影年月  ①、②2020年6月、
 ③、④2020年3月
 投稿者   中村 靖   
 投稿者住所   神奈川県横浜市都筑区
 その他