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 (151) ビルの谷間に生き抜く
東京・本郷弓町のクスノキ
東京都文京区のビルの谷間で頑張る楠巨木が有ると知りました。日本の人里にある巨樹巨木の多くは神社仏閣の所有です。神社でもなく寺院でもないビルの谷間に生き続ける楠巨木にはどんな魅力が秘められているのか、興味をそそられ早々会いに出かけました。

 

 (151-1) ビルの谷間に巨木

 本郷弓町の楠が有るとされるあたりを地図で見ると、神社やお寺や公園らしいものは見当たらず、果たしてそんなところに見るべき巨木が有るのかと半信半疑でした。
 
地図を頼りにそれと思われる方向に歩いていくと、一直線の道路のはるか向こうに大きな緑の固まりが見えてきました。それは街路樹とは違いひときわ高く茂り、明らかに普通の樹木とは異なる大木の存在を示しており、期待が高まり足取りも軽くなってきました。

 

  (151-2) 堂々と立つ楠巨樹
近づいて見るとそれはまさしく楠の大木でした。大きく円錐形の幹は実にどっしりとして、周囲に居並ぶ大きなビルに負けない実に堂々とした姿で立っていました。幹周:8.4m、樹高:20m、推定樹齢:620年、文京区最大の巨樹です。
そのどっしりとした姿は「私はあなた方がここに来るはるか前からここに立っている。ここを絶対に動かないぞ。切り倒せるのなら切り倒してみろ!!」と言っているような迫力を感じました。この迫力の前には、この木を切り倒せる人はいないでしょう。
 
この楠は江戸時代には楠木正成の血を引くと言われる旗本甲斐庄喜右衛門の屋敷に立っていました。明治時代に書かれた「東京名所図会」にもこの楠が取り上げられ「弓町一丁目八番地の前を過る者は、何人もその門内に注連縄を結びし老楠樹あるを見るべし・・」と記されています。
大正時代(1920年頃)に屋敷は取り払われ、跡に洋館が建てられましたが楠は生き残りました。洋館は「楠亭」と呼ばれるフランス料理店であったそうです。

 

 (151-3) ビルとの生存競争

 1991年(平成3年)にここを訪れた司馬遼太郎は『街道をゆく本郷界隈』に「甲斐庄喜右衛門の屋敷跡に、いまも一樹で森を思わせるほどの楠がそびえている」と記しています。1991年頃までは大きく枝を広げてそびえる楠の雄大な姿が見られたのでしょう。
 しかし1999年(平成11年)頃、洋館は取り払われこの地に13階建てのマンションが出来ましたが、その時も楠は生き延びました。
 楠の裏に回って見上げると、左写真のようにビルが迫ってくる側の大枝はかなり切り落とされて、クスノキ本来の大きく枝を広げた「森を思わせるような雄大な樹形」は失われています。しかし幸いビルは西側に建ち道路が南北方向に通っているため最小限の日照が得られているのでしょう。楠の葉が力強く茂っています。

 

 (151-4) 今もなお成長旺盛な楠巨樹

 楠の根元に注目してみると、円錐形に広がる幹は今も旺盛に成長しているようで、楠を取り囲む竹の柵を飲み込んで成長しています。ビルの谷間と言う厳しい環境にもかかわらず、樹勢は非常に旺盛です。

 クスノキは非常に寿命が長く、日本では最も大きな巨木になる樹種で、幹周15m以上、推定樹齢1000年以上の大巨樹も少なからずあります。まだまだ樹勢旺盛なこの楠が大巨樹に育っのも不可能ではないでしょう。本郷弓町の楠はこの先数百年にわたって成長し続け、幹周15m超の大巨樹に達したときの姿はさぞ立派なことでしょう。

  

   樹木写真の属性
 樹  種 クスノキ(楠)[クスノキ科クスノキ属

(「樹木の見所」のページにリンクしています)
 樹木の所在地  東京都文京区本郷1-28-32  
 撮影年月  2021年2月
 投稿者  中村 靖   
 投稿者住所  神奈川県横浜市都筑区中川中央
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