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(153)木の国日本のルネッサンスを訴える
(新)国立競技場

2019年に完成した(新)国立競技場は、最新の運動競技場にとどまらず、国産木材をふんだんに使用することにより、樹木と共に築く持続可能社会の象徴的な存在にもなっています。
東京2020オリンピックが開催されているこの機会に、(新)国立競技場に込められた思いを再確認したいと思います。

  

 (153-1) 新国立競技場のコンセプト

建築家・隈研吾さんによって設計された(新)国立競技場は「杜(もり)のスタジアム」を基本コンセプトとし、周辺の豊かな緑との調和をはじめ、国産木材をふんだんに使用した世界的にも珍しい木のぬくもりが感じられるスタジアムです。
 この競技場は最新鋭の運動競技場に留まらず、私たちが直面している持続可能社会の実現に向けた大きなメッセージを発信しています。
 
かつて日本は身近に豊かにある樹木資源を活用した持続可能社会を作っていましたが、戦後、石油・鉄・コンクリーに依存した社会をめざし、木の国日本は失われてしまいました。しかし石油・鉄・コンクリー万能社会は多くの深刻な問題に直面し、この方向は持続不可能であることが鮮明になりました。樹木と共に持続可能社会を復活させること、すなわち木の国日本のルネッサンスが必要であることを、(新)国立競技場は訴えているのではないでしょうか。

 

 (153-2) 軒庇(のきひさし)を飾る全国各地の木材

 競技場外側に広がる4段(エントランス部は5段)の軒庇には国産木材がふんだんに使用されています。下写真に示すような構造は京都や奈良で見る五重棟を連想させ、忘れかけていた日本建築の美しさを思い出させてくれます。
この国産木材は単なる材木ではなく、47都道府県から集めれれスギ(杉)材が使われています。各県から供給された材木は競技場の方角に応じて使用され、北側には北海道や東北地方の材、南側には九州・沖縄地方の材と言うように配置されている念の入れようです。
日本全国あらゆる場所において杉が植え育てられ、豊かな樹木資源が有ることを示すと共に、植え・育て・活用するサイクルを回せば尽きることの無い持続可能な資源であることを示しています。

  

(153-3) 木のぬくもりを伝える大屋根の木材

屋根をささえる構造材については十分な強度のある鉄骨を主体として、地震や強風による変形を抑えるための木材を組み合わせたハイブリッド材が使われています。ここでの木材は主に北海道で植え育てられたカラマツ(唐松)が使われています。競技場内から上を見上げると下写真(EMIRA-HPより)のように樹木のぬくもりが伝わります。
 
 鉄と木材を組み合わせたハイブリッド材を使うことにより環境負荷の多い鉄の使用を極力抑え、耐用年数を過ぎた時には、木材を燃料として使うことにより、トータルの環境負荷も軽減できるのです。新しい形で木を植え・育て・活用することが新しい持続可能社会を構築する重要な手段となり得ることを示しています。

 

  (153-4) 移植されたスダジイの古木

 樹木と共に持続可能社会を築いていくためには、木を植え・育て・活用するだけでは不十分で、掛替えのない樹木についてはこれを守り・慈しむことも必要であることを、(新)国立競技場は教えてくれています。
 (新)国立競技場が建設された敷地の中に左上写真の様なスダジイの古木が有りました。推定樹齢400年、幹周4.7mのこの巨木は古く江戸時代から地域のシンボル的な樹木とした親しまれ、新宿区の天然記念物にも指定されている樹木です。かけがえのない樹木として、これを伐採するのではなく、近くの明治神宮外苑の聖徳記念絵画館(左下写真)の傍に移植されました。移植に要した費用は1400万円であったそうですが、かけがえのない樹木を守り慈しむ心が如実に示されています。
(左上のスダジイの写真はWebより)

 

   樹木写真の属性
 樹  種 スギ(杉)、カラマツ(唐松)、スダジイ(すだ椎)
 樹木の所在地  東京都新宿区霞ヶ丘町10-1
 撮影年月  2021年7月
 投稿者  中村 靖   
 投稿者住所  横浜市都筑区中川中央
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